THE ORAL CIGARETTES
ReI オフィシャルインタビュー Vol.2

Text by 秦理絵

ツアーを通して「ReI」を届けるということ

――昨年秋の「Diver In the BLACK Tour」からは、実際に曲ができた経緯をMCで伝えながら、「ReI」を届けていきましたね。正直に言うと、ちょっと唐突でびっくりしました。
山中:お客さんからしたら、「え?」だったと思うんですよ。だって、「Diver In the BLACK Tour」っていうのは、「闇があってもいんだよ」っていうことを伝えるのがテーマだったから、いきなりアンコールでそういう話がくるんや!って(笑)。
――実際にライブで演奏をしてみて、どんなことを感じてたんですか?
鈴木:さっき拓也自身も「中途半端なことはできない」って言ってたけど、それは僕自身もそうやったというか。むしろ僕の場合は、それ(震災)に対して自分が何かを言ったことで起こるレスポンスに、真っ向から立ち向かう勇気がなかったんですよね。だから、この曲をもって日本をまわるっていうことは、個人として、僕が背負いきれなかったものを、バンドとしてならやれるっていう意味で感謝してたんです。それを喜びって言ってしまっていいのかはわからないんですけど。初っ端の大阪では、ずっと自分のなかでうやむやにしてたものが、少なからず晴れたなっていうのはあって。当時はお客さんの反応どうこうよりも、自分がこの曲にどう向き合うかのほうが重要だったと思います。
――シゲくんに関しては、MCもしないし、ライブで言葉を発することはほとんどないけど、やっぱり自分なりに向き合おうとしてたんですね。
鈴木:マイクはないですけど、この曲はみんなと一緒に歌いたかったし、自分なりの背負い方を示したかったんです。僕は恥ずかしがり屋なので(笑)、お客さんの顔をまじまじと見られないんですけど。でも、この曲だけはしっかり後ろまで見て歌うようにしてました。
――あきらくんはどうでしたか?
あきら:僕は、メンバーのなかでいちばんうしろめたさが大きかったと思います。この曲が持つパワーも信じてるけど、福島のお客さんの前で、「俺がやっていいんかな?」っていう想いを持ちながら、ツアーをスタートしたんです。南相馬に行ったとき、僕も気分が悪くなってしまって、現地の人の話も途中で聞けなくなってしまったんですよ。「自分は向き合えない体質なのかな?」っていう気持ちで、目を背けまくって過ごしてきたんです。
――そうだったんだ。
あきら:だから僕がオーラルに追いついてない状況が続いてて。郡山でやったときも、直前まで「どんなことを思われるんやろう?」って不安やってたんですけど、曲が終わったときに、鳴りやまないぐらい大きな拍手が楽屋まで聞こえてたから……もう号泣ですよね。
――安心したんだね。
あきら:うん。そういう涙は初めてでした。「あ、受け入れてもらえた」って思えたから、もっと胸を張って、この曲を演奏すべきなんだなって、そこでわかったんです。

――このツアーでは、いまあきらくんが言ってた福島での公演もあったし、まだ地震と豪雨の記憶が生々しい熊本公演もありましたよね。そういう場所では、やはり他の土地とは違う反応が起きたりしたんですか?
中西:すごく感じたのは、福島とか熊本では、拓也のMC中から、すでにお客さんのなかで「ReI」が始まってるんだなっていう感覚でしたね。お客さんのなかで「ReI」っていう曲と、自分たちとが一緒に動いてる感じがしたんです。それが独特で。
山中:MCで曲の話をしたときのリアクションは全く違いましたからね。話をしただけで、泣いてる子もいたし。やっぱり、めっちゃ辛かったんだろうなって思いました。そういう姿を見ちゃうと、全部の土地で同じテンションを保つのは難しかったですね。
――このツアー中には、公演後、ライブに来たお客さんがパスワードを入力すると、「ReI」を視聴できるという試みがありました。
山中:ほんの数時間でしたけどね。
――いままでもオーラルはリリース前にダウンロードできるっていうことはやってきたけど、今回はそれまでとは全く違う意味合いがあったと思うんですが。
山中:「ReI」は初めて人のために書いた曲だから、人に届かなかったら意味がないじゃんと思ったんですよ。いま自分たちの目の前にいる人だけじゃなくて、俺らのことを知らない人にも「ReI」を知ってほしかった。みんなの歌にしたかったんです。で、それを前提に、この曲を伝えていくとしたら、やっぱり俺らにはライブしかなかった。俺らの見えないところで音だけが先行して走っちゃったら、それが本当に届いたか、わからないんですよね。でも、ライブで対面したときに伝えれば、絶対に届くっていう自信があったから。それで、ライブに来た人にだけ、もう1回この想いを噛みしめてもらえたら嬉しいなっていう気持ちだったんです。だから、会場の外には漏らさないでほしいって伝えて。
――あのとき、ライブレポートにも詳しく書かないでって言われてましたからね。
山中:そうですよね(笑)。対人間として、この音楽を共有したかったんです。だから、ツアーに来てくれた人だけ聴いてもらおうっていうのが第一のフェーズで。でも、ライブには来られないけど、俺らのことを好きでいてくれる人がいることはわかってるから。次はその人にも広めるために、ファンクラブを使ったりしていったんです。
――なるほど。
山中:で、自分のなかで描いてたのは、最後に大阪城ホールで、そこにいるオーラルの仲間がみんな「ReI」を知ってる状態を作りたかったんですよ。あれだけ人が入るところで、「ReI」が届いたら、本当に音楽の力を信じていいんだっていう答えが出ると思ってたから。だから、それまでのツアーを積み重ねた、大阪城ホールがひとつの目的地でした。
――結果的に、大阪城ホールでは「ReI」を無料でリリースすることが発表されたわけですけど。そこで対価をもわらないって決めたのは、いつ頃だったんですか?
山中:城ホールに向かっていく途中で考え始めてました。「ReI」は曲ができた瞬間から感覚が違ったし、自分じゃなく誰かのために書いたものだから、誰かに届くことのほうが優先でしょうって思ったことがいちばんのきっかけですね。今後、「ReI」をどうするかっていう話し合いのときに、「別に無料でいいですよ」って、ふつうに言えちゃった自分にもびっくりしたし。
――こうやってメンバーの想いを知ると、無料になるのも自然の流れだけど、果たして客観的に見たときに、どう見えるかは未知数ですよね。
山中:だから、これが正解か、不正解かはわからないんですよ。でも、ライブで直接伝えるっていうのが、俺らのいちばんの目標だったし、俺らが伝えたように、“あなたたち”の大切な人にも「ReI」をハードルなく聴いてもらいたいんです。あとは、俺らはこのプロジェクトをチャリティーでやってる気持ちなんて全くないんですよ。無料になったのは、誰かのために初めて書けたから。できるだけたくさんの人に聴いてほしいからっていうだけなんです。

「大阪城ホールで「ReI」が確信させた“音楽の力”

――大阪城ホールまで一つひとつ積み上げてきて、アンコールで届けた「ReI」では、大合唱だったじゃないですか。あの景色を見たときにはどんな気持ちでしたか?
山中:城ホール公演の前までは、死ぬほど練習をしてたから、本編に関しては伝えたいことも世界観もはっきりしてたんですよ。だから、それが終わったあとに自分が「ReI」で何を歌うのか、どういう言葉を伝えればいいのかっていうのは、いままでのライブで感じたことがないくらいプレッシャーがあったんです。本編が終わったのに、なんなら「いまから本番や」ぐらい不安やったし、全然(みんなの)声が聴こえへんかったらどうしよう?とか、自分たちがやってきたことが実ったと思えへんかったら、音楽を信じられへんくなるやろうなと思った。だから、あの「ReI」のシンガロングの瞬間は、俺、一生忘れないでしょうね。それぐらい感動をしてしまったし、すごく安心した。オーラルのファンに伝えてきて良かったし、オーラルのファンには、ちゃんと受け取ってくれる人が集まってくれてるのを感じられたから。音楽の力を信じて良かったなと思いました。
――拓也くん、泣いてたよね。
山中:もうダメでしたね(笑)。あとで映像を見たらもう……
あきら:ちょっと後悔してる?
山中:うん、ちょっと後悔してる部分もあるんですよ。最後、ちゃんと前を向いて歌いたかったんですけど、最後のシンガロングで、「もうダメだ」と思った。もう涙を抑えるのに必死で、全然前を向けなかったんです(笑)。
――他のメンバーはどうでしたか?
中西:正直あんまり覚えてないって言うか、いや、覚えてるんですけど(笑)。いままで、「ReI」をやったときに、「ちゃんと伝えないと」っていう気持ちが強くて、すげえ必死で曲に寄り添いに行ってたんですよね。それで思うように動かんときもあったけど。でも、大阪城ホールで「ReI」をやったときの感覚がすごく不思議で……。曲が鳴ってるんですけど、鳴ってないみたいな感覚になってるんですよ。
あきら:わかる、わかる。
中西:いままで、ほんまに「ReI」を追いかけてる感覚だったけど、「ReI」のなかに入ってる感じというか。僕のなかで、ほぼ拓也の歌しか聴こえないんです。でも、ふとしたときにシゲのギターの音が入ってきたりとか。ふわっとしてるんですよね
あきら:体が無意識で動いてんねんな。
中西:気づいたら終わってる、みたいな感覚でした。
――へえ。それは、ちょっともうミュージシャンしかわからないんでしょうけど。あきらくん、ものすごく頷いてましたね。
あきら:僕もね、城ホールで「ReI」になったんですよ。
全員:あはははは!
あきら:それまでは「お客さんに伝えないと」とか思ったんですけど、大阪城ホールでは、いつも間違いやすいフレーズも無意識に弾けてたし、全然止まらない。コーラスも呼吸するようにできたから、「ReI」と進んでる感覚なんですよね。
中西:「あれ?クリック聞いてたっけ」って思うぐらい、何も聴こえないんですよ。
――それ、すごいな。リズム隊が「ReI」になってるっていう、ちょっとふつうじゃない状況でしたけど、シゲくんはどうでした?
鈴木:僕も「ReI」になってました……って言えれば、良かったんですけど。
――いや、大丈夫ですよ(笑)。
鈴木:さっき拓也が「不安やった」って言ってたのを聞いて、やっぱり「ReI」に対して、長い時間かけて生み出した人間と、それをデモで聴いた人間の感じ方の違いがあったんだなと思いました。僕自身、「ReI」に出会った瞬間から、もう信頼感があったから、大阪城ホールでやることに対して、「ちゃんと伝わってるかな? 大丈夫かな?」っていうのはなかったんですよね。出会った瞬間に「持ってる」って思っちゃってたので。
――なるほど。城ホールのあと、本格的に「ReI project」がスタートして。ひとつすごい現象が起きてますね。レコード店が積極的にこの曲をプッシュしてくれてて。無料ダウンロード音源だから、一切レコード店の利益にはならないじゃないですか。
山中:うん……これはもう感謝しかないんですよね。プロモーションってお金がかかるじゃないですか。こんなことを俺らが言うのは違うかもしれないんですけど。
――わかりますよ。たとえば、レコード店で平台にCDを置くには、一般的にはレコード会社がお金を払って、プロモーションとして展開されてるわけですから。
山中:今回は無料音源だから、そこに俺らは全く関与できてないんですよね。それは、ラジオ局の人たちもそうなんですけど。全く見返りを求めずに、気持ちだけで呼応してくれた人たちがたくさんいたから、本当に感謝でしかない。人のことを信じて、音楽のことを信じるって、こういうことなんだなって、本気で思いました。
――デビュー前の拓也くんからしたら考えられないことでしょ?
山中:人なんて全く信じなかったですからね(笑)。
中西:事務所に入るときにも、ずっと「大人は信じられへん」って言ってた(笑)。
全員:あはははは!
――こうやって話を聞いてると、震災に向き合いたいっていうことから始まって、初めて誰かのためを思って完成した「ReI」だけど、途中から、自分たちが音楽の力を信じるための曲にも変化をしていってますね。
山中:それも、大阪城ホールがあったからですね。正直、俺からしたら一方通行だったんですよ。もし、それが伝わらなかったとしても、俺が文句を言えることじゃないというか。でも、伝わらなくても、みんなに届けたかった。そのために、無料にする。それはもう全て音楽の力を信じたいっていうだけのものでしたからね。
――「ReI」を大阪城ホールで届けることができて、改めてオーラルの音楽にはどんな力があると思いますか?
あきら:僕、オーラルは、音楽と人間とが、同時に成長してるバンドだなって思うんですよね。人間が成長して、新しい音楽ができて、その音楽によって、また自分もそれを超えてやろうとする。だから、音楽の力を信じるっていうことは、僕ら自身の力を信じることだと思うんです。この4人なら、どこまでもいけるんじゃないかと思っちゃってるんですよね。
中西:俺も、オーラルの曲は人間らしいなって感じることが多くて。人が生きていくなかで、みんなが無意識に感じてる部分を見つめ直せる力があると思うんですよ。俺、大阪城ホールの日に招待してた友だちが、急に来られなくなったんですよ。おじいちゃんが亡くなったらしくて。って言われたときに、あの日、「エンドロール」をやってるときは、そいつの顔しか出てこないんですよね。そういうのを曲にしてるバンドなんですよね。これからオーラルの曲がどう変わっていくか、僕ら自身もわからないんですけど、人として深い部分をちゃんと感じられるきっかけに、オーラルの音楽はなれる気がしてます。

――シゲくんはどうですか?オーラルの音楽が持っている力というのは。
鈴木:まだ、正直これですっていう答えはわからないんですけど……。それこそ昔のロックスターの言葉で、「音楽が言語を越えるんだ」っていうのを聞いたときに、なんとなく僕は「そういうもんなんかな?」って思ってたんです。でも、「ReI」を出して、少なからず海外の人たちにも響いてるを見ると、「そういうもんなんかな?」って思ってたものに対して、「あ、音楽の力って、こういうものなんだって」思えてるんですよ。それを確信するためには、俺たち自身が経験を積まなきゃいけない。たぶん一気にドーンって、「これが音楽の力だ」みたいなことを言うのは、俺自身では無理なんだろうなって思ってるんですけど。
――でも、バンドと一緒であれば?
鈴木:うん。できるんじゃないかなって。それは何か起こるたびに、いつも思うんです。たぶん一生こうやって何かを探してるんでしょうね。
山中:俺もシゲと一緒ですね。音楽の力は何なのかわからない。こういう感動を得たけど、やっと原点に立っただけやと思うんですよ。人を信じる、音楽を信じる。そもそもミュージシャンが音楽を信じてないなんて、ありえない話やと思うし。改めて、音楽を信じていいんやなっていうのは、一周まわった感じですよね。
――うんうん。
山中:あとは、自分を褒めてあげるっていうことは難しいんですけど、自分が書いた曲が、こうやって広がっていくんやっていうのを感じられたことで、自分の存在意義をもう一回確かめられたんです。だから、「あ、俺、死んだらあかんのやろな」って……なんて言うんやろ? 「俺が死んだときに崩れていくものがいっぱいあるんやろうな」っていう責任感も芽生えた。なんか…「俺、いつ死んでもいいっす」とかも思うんですけど、「それは、あかんな」っていまは思える。そんな可能性を音楽が与えてくれたっていう感じかな。
――そもそも人としての原点に、やっと音楽が気づかせてくれたんですね。
山中:本当にそう(笑)。それもオーラルらしいんです。
――この先、ReI projectはどんなふうに展開していくんですか?
山中:俺らが、音楽のちからを信じて、音楽を提供するっていうことをやれたので。じゃあ、逆があってもいいじゃないか、とは思ってます。俺らが音楽を届けて、そこに感動した人が、何かを僕らに与えてくれる。それはお金じゃなくて。ライブでその人たちが見せてくれる表情が俺たちの宝になるとか、そういう意味で。なんか、そういうものをリスナーにも感じてもらえるプロジェクトにしていきたいと思ってるんですよね。当たり前のものだけじゃない。それを見つめなおしたうえで、あなたたちは元に戻るか、また違うものを発信していくのか、そういうことに気づいていくプロジェクトになればと思います。
――最後に言い残したことはありますか?
山中:天変地異っていうのは、やっぱり人間が生きていくうえで避けられないものだと思うんです。だから、「ReI」っていう曲をとおして、それとどう向き合っていくかを考えてほしい。「ReI」は、そういうことが起きたときに寄り添える曲であってほしいんです。ひとりで寂しい、辛いって思ったら、「ReI」は、いつでもあそこに置いておくので。

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