THE ORAL CIGARETTES
ReI オフィシャルインタビュー Vol.1

Text by 秦理絵

「ReI」誕生のきっかけと制作について

――初めて「ReI」がライブで披露されたのは、去年の秋に開催した「Diver In the BLACK Tour」のアンコールでしたよね。
山中:はい、そうですね。
――そのときにも楽曲ができた経緯を話してたけど、この場で改めて聞かせてもらえますか? ツアーで南相馬を訪れたことがきっかけだったそうですが。
山中:そうですね。2年前にロットン(ROTTENGRAFFTY)のツアーで、初めて南相馬につれていってもらったんです。で、そのときのメンツが、ロットン、The BONEZ、僕ら、やったんですよ。そうなったら、ロットンとボーンズは、(東日本大震災の被災地である)南相馬っていう場所でやる意味を話すじゃないですか。
――2組とも、ずっと震災と向き合ってきたバンドでもありますからね。
山中:でも、俺は喋れへんなと思って。自分がそこに関わるのがしっくりこなかったんです。たとえば、広島に原爆が落ちた日に黙祷しましょうとか、3月11日に、あの日のことを思い出しましょう、とか。俺はその人たちの気持ちを100%理解できるわけじゃないから、わかった風なことを言うぐらいだったら、触れずに、目を逸らしてもいいんじゃないかなと思ってたんです。絶対に中途半端には触れたくなかった。で、ロットンのNOBUYAさんに「今日はいつもどおりのオーラルでやるので」って言ったんですよ。
――ライブの前に?
山中:そう。そしたら、「それでいいよと思うよ」って言ってくれて。で、そのときにロットンとかボーンズが、震災に対してMCで喋るのを聞いてたら、説得力がすごかったんです。それを見たら、やっぱり俺は中途半端に喋らんで良かったと思ったんですよね。
――わかります。
山中:で、その日の打ち上げに、現地のスタッフの人が来てくれたんですよ。そしたら、途中からやっぱりこう……MCの話になって。「僕はそういうことを言えなくて、本当に申し訳ないし、力になれないことを情けなくも思ってます」って言ったら、「気持ちもわかるし、そう言ってくれるほうが、中途半端に関わるより嬉しい」って言ってくれたんです。「でも、やっぱり(被災地に)来たからには、知ってほしいこともある」って言われて。その日の打ち上げは本当にその話しかしなかったんですよね。
――震災に関する話ですね。
山中:震災の話だとか、いまの南相馬の現状とか、それを利用して悪いことをするやつもいるっていうところまで聞いたんです。その話を聞いたあと、うちのスタッフとも「どう思う?」っていう話をしたんですけど、「俺は自分の意見を出されへんわ」って言ったんです。聞くしかなかった。それで、その発端の場所を知りたくて、その次の日の朝に、現地に足を運んで、その場所を見ることにしたんです。
――それは南相馬?
山中:南相馬の波がいちばん押し寄せてきたところです。そこは、まだ工事をしてて、復旧作業をしてる段階だったんですけど、ショックな光景やったんですよね。「いまは少しはマシになってる」っていう話も聞いたけど、マシになってるって言われても……っていうぐらい衝撃で。言い方が悪いけど、俺、気持ちが悪くなってしまったから、「もう帰りたい」って、そのまま帰ったんです。で、帰り道にずっとその光景のこととか、いろいろな人が自分に対してかけてくれた言葉のことを考えてて。せっかくみんなの前で歌を歌うことのできる人間やねんから、自分なりの消化の仕方をしなきゃいけないなっていう責任感に駆られたというか。そこから曲を作り始めたんですよね。
――作ろうって決めてからも、かなり時間がかかったそうですね。
山中:やっぱり2~3ヵ月でできるものじゃなくて。これやったら、わかった気になってるとか、わかった風な気がするとかやってるうちに、すごい長い時間がかかっちゃったんです。でも、ある程度の完成形までもっていけたときに、何も言わずに、他の曲のデモと一緒に入れて、メンバーとかスタッフから何か反応があったら、そのことについて喋ろう、反応がなかったら響かんかったんやって思おうとしたんですね。そしたら、うちのチーフマネージャーがいちばん最初に連絡をしてくれて。「拓也、あれってどういう曲?」って聞いてくれて。「この曲めっちゃ良い曲だと思う」って、初めて言ってくれたんです。俺、それがうれしくて。じゃあ、この曲をみんなに伝えていくためにしっかり作戦を練って、この「ReI」っていう楽曲のために、“ReI project”を始めることにしたっていう流れですね。
――最初に、拓也くんがひとりで曲を作ってたとき、この曲のなかで、いちばん書いておきたかった感情って何でしたか?
山中:出だしの部分ですね。俺、この曲をやるんだったら、出だしは自分の声と歌だけでやりたかったんですよ。そのメロディとか歌詞で、辛さだけじゃなくて、辛さから見えてくる未来感というか。「先につなげていこう」っていうものを出したかったんです。
――うんうん。それが、この曲の肝ですよね。
山中:覚えてるかわからないけど、その出だしの部分を俺がスタジオで一瞬だけやったことがあって。あきらが「それ、何?」って食いついてくれたんですよ。それで、「あ、しっかり届けられるメロディやったのかな」っていう自信にもなったんです。
あきら:そのときのことは、あんまり覚えてないんですけど。ふだんスタジオに入るときから、俺は生み出せない人間で、拓也の生み出すものを育てたいと思ってるから、そういう小っちゃな種を見逃さないようにはしてるんです。そのうちのひとつだったんですよね。それが拓也にとって大きいことだったのは、いま初めて聞いたけど。うれしいです。
――デモ作りはいつものようにまさやんと拓也くんのふたりで?
中西:そうですね。拓也が震災のことを曲にしたいっていうのは聞いてたんですけど、最初がバラードっぽい曲なのに、ドラムのリズムは速かったんですよ。それにけっこう戸惑ったんです。「起死回生(STORY)」みたいな前向きな曲なのかな?とか考えつつ。でも、そこに拓也がギターと鼻歌を入れ始めたときに、「なるほど」と。一気に見え始めましたね。
山中:雅哉に「え、このリズムを入れるの?」って驚かれたのは覚えてる(笑)。
――弾き語りから始まって、バンドが加わった瞬間に一気に加速していくようなエモーショナルな展開っていうのは、最初からイメージしてたんですか?
山中:最初から決まってましたね。何かを惜しむんじゃなくて、もっと明るいほうを向いていこうよっていうのがあったんです。実際に現場を見たときに、これをこの先につなげていきたいと思ったから。その感情を音楽として表現するには、1回自分の声で潜って、そこから這い上がっていくしかないと思ってたんですよね。
――シゲくんはこの曲のデモを聴いたとき、どう思いましたか?
鈴木:他に3~4曲あるなかに聴かせてもらったんですけど、けっこう自分の頭のなかの割合がこの曲が占められてしまったんですよ。まだ歌詞の意味とかは全然知らなかったので、メロディを聴いただけの印象だったんですけど。いままでの自分が持ってる以上のものを出し切って、この曲を良くしていきたいなと思ったのが、最初の印象でしたね。
――平行して、歌詞も固めていく作業になると思いますけど。強く印象に残るのが、サビの“天変地異”という言葉ですよね。日本人ならどうしても、直近の東日本大震災とか、熊本の地震と豪雨を連想させる。こういう言葉を歌詞に入れたのは?
山中:いまはもう自分が書く歌詞のなかで、これを伝えたいなと思ったら、ぼやかす必要はないなと思ってるんです。「ONE'S AGAIN」とかもそうなんですけど。何を歌ってるかを一瞬で伝えたいなと思ってるんですよね。俺、この言葉に対するうしろめたさはないんですよ。だって、未来のことを歌ってるし、自分のなかで、それはもう嘆く言葉じゃないなっていうのはあったんです。だから、サビの頭はそれしかないなって思いました。
――最初は震災に対して自分の意見すら持てなかったのに、時間をかけて考えて、ぼやかす必要がないっていうところまで、自分なり答えを見つけられたと?
山中:いや、いまだに答えは全然見つかってないんですよ。最初にも言ったとおり、俺は“あなたたち”と一緒の感覚でいるわけじゃないし。そこを訪れたひとりの人間として感じたことをそのまま書いてるだけですよ、ということですよね。
――歌詞があがっていくなかで、メンバーとしても、これまで作ったきた曲とは違う気持ちで、この曲に向き合っていくことになったんじゃないですか?
中西:その“天変地異”っていう言葉が出てきた時点で、「なんとなく」じゃあ、この曲を叩けへんなって思いました。でも、それを自分で書いて歌ってる拓也は、それ以上の覚悟がいるはずやし。だから、とにかく作っていく当時は、この曲をちゃんと理解して、そのなかで自分が何を感じるかっていうのが、いちばん重要だったと思います。
鈴木:僕、いままで曲のコードを書き起こす、みたいなことをやったことがなかったんですよ。でも、この曲では気がついたら、夜な夜な、メロディに対して、どのコードが合うかな?って考えてたんです。正直言うと、コードに関してはあきらのほうが詳しいし、そこに対してのコンプレックスもあったんですけど。そういう雑念もなく取り組めたのは、本当にこの曲の力なんだろうなっていうのはありますよね。「ありがとう」って感じです。
山中:シゲがコード譜を持ってきたときは、「どうしたん!?」って思いましたよ(笑)。
鈴木:やったことなかったですからね。
山中:たぶんこの曲を自分ひとりのソロでやったとしたら、ふつうにきれいにブラッシュアップして終わってたと思うんですよ。でも、スタジオで「2番のアレンジをどうしようか悩んでんねん」って言ったときに、メンバーが「やるで」って言ってくれて。俺はちょっと席外してたんですけど、そのあいだに、あのアレンジを作ってくれたんですよね。正直、びっくりしたんですよ。こんな未来への持っていき方があるん!?って。
――わかります。2番の“大丈夫”のところですよね。最初にこの曲の火種になった、「未来につなぎたい」っていう想いは歌詞だけじゃなくて、音にもなっている。
山中:この感じ、俺のなかにはなかったから、「あ、これがバンドなんやな」って、すごく思いましたね。

タイトルに込めたいくつもの意味

――タイトルの「ReI」は、数字のゼロを表してるんですか?
山中:これ、最初のタイトルは「天変地異」だったんですよ。
――サビで使われてる言葉ですね。
山中:さっきも言ったとおり、俺はこの言葉をマイナスな意味で言ってるわけじゃないし、聴く人にとっても、瞬間的に入ってくるワードなんじゃないかと思ってたんです。でも、歌入れのタイミングかな? 「タイトルは『天変地異』でいい?」って確認したら、あきらとマネージャーが「ちょっと悩んでる」って言ってて。俺は、けっこう頑なに言い張ってたんですよ。「『天変地異』で大丈夫です。俺は伝えられるから」って。でも、客観的にその言葉を見たときにどう思われるかを冷静になって考えたり、この曲に思い入れがあるのは、自分だけじゃないなっていうのを思ったときに、そこから「天変地異」と同じぐらい、いま伝えたいことを表現できる言葉を探し始めたんです。
――なるほど。
山中:で、自分のなかで何を伝えたかったかをもう一度整理して考えていくなかで、日本語だと無理だったんですよね。でも、英語でもないと思ってたんですよ。だって、日本のことを歌ってるし。で、数字がピンときたんです。俺がいちばん最初に持ってた感覚は、(被災した人に対して)哀れみの感情を持っちゃいけないっていうことやったから。いま復興しようとがんばってたり、未来を見ようとしてる人たちを見て、「いや、ゼロになってない」って言いたかったんですよ。
――うんうん。
山中:ゼロとレイの違いって、ゼロは全くないことなんだけど、零はわずかながら残ってるっていう意味があるんですね。それが、この曲の言いたいことを表してくれてるんです。全部失ったと思われてるけど、絶対に残ってるものがある。災害に遭った人たちの気持ちも、逝ってしまった人たちの気持ちも、そこにちゃんと残ってる。それがここにあるなら、レイにしようと思ったんです。最初は漢字の「零」にしてたんですよ。「零」は上に「雨」を書くし。昔は、たとえ雨でも天変地異と呼ばれるような、怖いものだったじゃないですか。
――いまよりも川とかダムが整備されてなかったからですね。
山中:そう、そうやって雨に対して向きあってた人たちが作った漢字だから。それもピッタリだなと思って。あと、「零」は「零(こぼ)れる」とも読めんですよね。災害ではいろいろなものが零れたと思うんです。人の涙も、日本中の感情が零れた。でも、残っているものがある。だから、この言葉がピッタリだったんです。
――それをローマ字表記にしたのは?
山中:漢字で表わすことにしっくりこなかったんですよ。そこで、俺らの曲をやってくれてるディレクターに相談をしたら、“Ray of lights”で「一筋の光」っていう意味だよって教えてくれたんですよ。「Ray……それや!」と思ったんですよ。でも、英語は違う感覚もあったから、シゲに聞いたんですよ。「RayとREI、どっちがいいかな?」って。そしたら、「REIってさ、「Re:I」(リ:アイ)って読めへん?」って言ってくれて。なるほど、自分を再生するって言うのはピッタリやってなったんです。だから、「ReI」は造語なんですね。eだけ小文字なのは、最後にシゲが言ってくれた意味を込めてです。……説明、長かったですね(笑)
――全部合わせると、トリプルミーニングぐらいあるじゃないですか。
山中:いや、トリプルミーニングどころじゃないですよ(笑)。こんなにタイトルを考えたのは初めてやったぐらいです。
鈴木:僕、最後に「Re:I」って言ったのを覚えてるんですよ。でも、「それにするわ」って言われてなかったから、あの会話が採用されたのかはわかってなくて……。
全員:あはははは!
鈴木:とりあえずタイトルの理由はインタビューまで待とうと思ってました。
あきら:それがいまやな(笑)。
鈴木:「あ、良かった」って思ってます(笑)。

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